【体験談】海外看護インターンからフリンダース大学へ!オーストラリアでの正看護師資格取得までの道のり

お名前山本 瑠璃様
留学期間2016年4月から2021年4月滞在都市シドニー・アデレード/オーストラリア

日本での臨床3年を経て海外看護有給インターンシップへ参加。その後、看護師としてのキャリア・活動の幅を広げるべくオーストラリアの正看護師資格取得を目指しフリンダース大学へ編入。見事正看護師資格を取得。2021年4月からアデレードの公立病院で働くRuriさんにこれまでの道のりをお話いただきました。

1. 「もっと世界を広げたい!」留学しようと思った理由


私は職業選択をする際に、人より少し遠回りしました。私は高校卒業後、大学(英米文学部)に入学、最初から看護師を目指していたわけではなかったんです。さらにいうと、入学した大学にもろくに行かず「世界一周したい」「もっと世界を知りたい」なんてことばかり考えていました。

ある日、父親に「大学を辞めて海外に行きたい」と言いました。
今思えば、大学でろくに勉強もせず、何を言っているのやら‥という感じです(笑) ただ、父はそんな私に「いいんじゃないか?大学に進み世界が広がり、そういう想いを持てたのはいいことだと思う。応援するよ」、そう言ってくれたのです。

まさか父からこんなにも前向きな返答をもらえるなんて考えていなかった私は、自分が言い出したことなのにも関わらず、改めて「そうか、大学を辞めて世界に飛び出すという選択肢もあるんだ」 と考えるようになりました。とはいえ、きちんと考えると無鉄砲に大学を辞めたところで、何をどうしたらいいのかわかりません。そこで、まず春休みを利用して海外に踏み出すことにしました。

まだ大学1年生でお金もなかった私は、当時はやっていたSNS上でベビーシッターとして住み込みで働くことで生活費を抑えながら滞在するという募集を見つけ、単身アメリカに渡航することを決めました。今思えば、まったく英語もできないのに、海外の、しかも会ったことものない人のお宅に住み込みで働きに行くなんて無謀なこと、よくやってのけたものだと思います(笑)

また在学中は3つのバイトを掛け持ちしながら、空いてる時間を利用して色々な場所へ一人旅へも行きました。日本の隅っこにある小さな島でダイビングの免許を取りながら住み込みバイトをしたり、日本一周の旅をしている人に合流してヒッチハイクをしたりと、多くの人に出会うことで、さまざまな生き方を知り、改めて人の温かさを感じたことを覚えています。

このような経験を経て、改めて人と触れ合うことの意味を考え、日本を初め世界中の多くの人と携わったり、誰かの助けになったり、そんなことのできる自分になりたいと感じるようになりました。そのとき選択肢に挙がった職業が「看護師」です。思い立ったら行動してしまう性格というのもあり、その後すぐに実家近くにある専門学校を見学。勉強し社会人入試枠で受験しました。「やってみて損はない」「どうせ受からない」と思っていたのですが、思いがけず合格することができました。

ただ、合格してみて初めて本当に大学を辞めるのかどうか迷いました。
何か新しいものを掴み取りにいくときよりも持っているものを手放すときの方が勇気が必要なんだということをこのとき知りました。合格通知から1週間、内定受諾の締め切り直前まで誰にも相談せず考えました。

合格したということは「行け」ってことだな!

最終的には「これも運命だ!」という気持ちで一歩踏み出しました。周りと違う人生に足を踏み出すのは不安もありましたが、何より看護の勉強にはとても興味がありました。看護師は病院だけに限らず活動の場が多くあるのと、人と直接触れ合える仕事だなと強く思うようになっていたのが決め手でした。

そこからはあっという間に時間が過ぎて行きました。毎日新しいことを学んだり経験したりするのが楽しくて仕方ありませんでした。それは就職してからも同じです。看護の仕事が大好きで、辛いことも大変なことももちろんありましたが、毎日が本当に充実していました。

ボランティアか留学か


もちろん「海外」や「英語」というキーワードを忘れてはいません。看護師になったのもより広い世界に飛び出すための一つの準備です。「3年間は臨床を積み、その後は海外に飛び出そう」、看護学生時代からその思いは心の中にありました。自分の目で見て心で触れたいという思いから、夏休みを利用して、またまた一人でベトナム、カンボジアへ‥。孤児院でボランティア活動をしたり、地元の国立病院でJICAのシニアナースとして働いていた方とお話をする機会を経て、新しい視野が広がり、看護の勉強へのモチベーションも高まりました。また臨床を積んでいる間には、ジャパンハートという発展途上国を中心に活動する日本の国際医療ボランティア団体を利用しミャンマーでのボランティア活動に参加したり、ワールドアベニューで看護留学に関する留学相談をしたりしながら準備を進めていきました。

「どんな方法で海外に踏み出すのか?」を考えたとき、ボランティアと留学とで迷いました。
短期ボランティアに参加した際に利用したジャパンハートには2年間程度の長期ボランティアのプランがありました。このボランティアで海外に行くのか、はたまたワールドアベニューの海外看護インターンで行くのか‥ 最終的には留学することに決めました。
海外看護インターンはオーストラリアのワーキングホリデー制度を利用した留学プログラムです。よって30歳までしか参加できないという条件がありました。また、語学研修制度が盛り込まれているため、英語をきちんと学ぶ機会もあります。さらにアシスタントナースではありますが、給与を得ながら看護や介護に携わることもできます。せっかく海外に長期滞在するなら旅行なども楽しみたいという思いもありました。それに、看護インターンを経て英語力を高め、海外の現場で経験を積んだのちであれば、JICAや国境なき医師団など、参加できるボランティアの選択肢も増えます。総合的に考えたときに、この段階では留学を選択することが、今後の可能性をより広げることになると考えました。

臨床2年目の終わりころに決断。プログラム参加に必要な準備や貯金を進めながら臨床3年を経てオーストラリアに飛び出しました。

2. オーストラリアで正看護師を目指そうと決意


ここまでの話の流れでお気づきかとも思いますが、オーストラリアで正看護師になることを最初から決めていたわけではありません。それはオーストラリアに来てからも同じです。海外看護インターンのプログラムを終えたのちは以前からの趣味でもあったヨガを真剣に学ぶべく、ヨガインストラクターの道も考えました。他にもオーストラリアではなくイギリス留学から国際看護師になる道や、かねてより興味のあったJICAへの参加も検討していました。

もちろん、オーストラリアでの正看護師資格取得にも興味はありました。ただ、オーストラリアで看護師になるには学士が必要です。日本ですでに看護師資格を持っている場合(その他にも諸条件ありますが)、2年間で学士取得は可能です。ただ大学編入に際し必要な学費の合計は600万円程度‥ さすがにそこまでの費用を自分だけで用意するのは困難、両親に助けてもらう必要がありました。

友人からは看護師になり生活基盤を作れれば(オーストラリアの看護師の給与は高いため)親孝行、そしてヨガの勉強などもプラスアルファできるようになるなどとても前向きなアドバイスを受けました。ただ、なかなか決意できませんでした。

そんななか応募していたJICAの一次選考に合格したという知らせを受けます。二次選考は面接でした。面接官の方々はとても魅力的で、たくさんの刺激を受けました。ただ同時に「今の私ではまだ役に立てないな」と感じました。大学に進み、資格を取る。そして海外で看護師として経験を積む。学歴もそうですが、英語の面でも看護の面でももっと成長したい。JICAの面接は看護師としてキャリアアップしていく、その必要性を感じさせてくれました。

こうなったらダメもとで大学に出願してみよう!

日本で大学を辞め専門学校に挑戦したとき同様、やってみて損はなしと大学に出願。入学に必要な英語のスコア取得のためIELTSに挑戦しました。結果、合格。またしても、進む道が開いてしまいました(笑)

ただ、これも日本で専門学校に進んだときと同じなのですが、合格という結果が出てもまだ迷いがありました。「大学が終わるころには31歳か‥」という年齢的なことや、「大きなお金がかかるな‥」という金銭的なこと、ほかにも、「新たな地アデレードに馴染めるのか‥」などいろんなことが頭をめぐっていました。ただ、頭のなかで考えるだけでは何も進みません。そこで進学先の大学、フリンダース大学のあるアデレードまでいきました。行ってみるとアデレードはとても素敵なところで、ここで暮らしてみたいと感じることができました。

やってみよう!

私は、オーストラリアで正看護師になろうと決意しました。

オーストラリアでの留学生活

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3. 大学での学び・苦労・日本との違い


二度目の学生生活はとても楽しく、仕事に勉強に大変さもありましたし、2年目は残念なことにコロナ禍でリモート学習となりましたが、それでも充実した日々でした。絶対に大変だということは十分想像していました。わかっていたからこそ、完璧を求め過ぎず心にゆとりを持って過ごそうと事前に決めていたことが良かったように思います。

まずは英語での苦労

とはいえ‥ オーストラリアに留学してから今に至るまでの間、語学学校にはわずか3ヶ月間程度しか通ったことがありませんでした。当然大学で勉強するために必要なアカデミックイングリッシュ(レポートやエッセーの書き方、プレゼンの仕方など英語で勉強するためのスキル)なんてまったくわかりません。

一般的には大学に入る前の数ヶ月間、進学準備英語コースと呼ばれアカデミック英語を学びます。しかし私の場合、大学入学に必要な英語力を奇跡的に取れてしまっていたため、「進学準備英語コースに通わなくていいよー」と大学側から言われていました。どうしても不安だったので、なんとか1ヶ月間だけは通わせてもらいましたが、わずか1ヶ月間です。そんなことで最初は戸惑っていたのを覚えています。

次に勉強スタイルの違いに苦労


オーストラリアでは日本と異なり、セルフスタディがものすごく重要です。日本の場合、1から10まで教えてもらい、その理解度をチェックする、その繰り返しが一般的です。教科書の内容を全く読んでいなくてもその日の授業についていけないなんてことはありません。一方でオーストラリアの場合、教科書など教材に書かれていることなどはある程度自分で事前に勉強していることが前提で授業が行われます。「そんなこと教えてもらったことないよ?」という知識や技術を踏まえたディスカッションやグループワークが行われます。さらに私の場合、編入でしたので、より専門性の高いところから授業がスタートしています。正直、日本で看護師でなければついていけないことも多々あったように思います。

ただ、幸いにもオーストラリアの大学はどの大学にも一定数の留学生が在籍し私が抱えたような悩みや苦労を誰もが経験します。そしてそれらの課題を解決するためスチューデントセンターが存在し、レポートのレビューなどサポートを受けることができます。私はこのスチューデントセンターを使い倒すこと、そして頼れる友人たちに支えられ無事卒業することができました。

日本と最も大きく違うと感じたこと「実習」

まず違いを感じたのは「仕組み」です。
日本の場合、どこかの診療科に偏ることなく全般的に経験できるよう仕組みができているように思います。一方でオーストラリアの場合、日本と比較し実習機会が少なく、さらに経験できる診療科に網羅性はありません。例えば私の場合、大学に在籍した2年間のうち、実習機会は4回、それぞれ2ヶ月間程度です。私は自ら希望したこともあり、1回目は高齢者介護施設、2-4回目は病院と比較的、多彩な経験ができた方だと思います。しかし、人によっては4回中2回が介護施設というケースもあります。もちろん、介護施設での実習も貴重な経験です。ただ、実習機会のうち半分が介護中心の経験となることには経験値の偏りを感じずにはいられません。

次に感じた違いは「目的」です。
日本の看護実習では、業務を学ぶ目的もあるかと思いますがどちらかというと看護師としてのマインドセットを学ぶような印象です。一方でオーストラリアの場合、あくまで実践の場で業務を学ぶことが目的のように感じました。(もちろん、病院や診療科、担当のスーパーバイザーなどによって異なるので一概にはいえませんが‥)

他にも業務の違いや実習先のスタッフとの関係性の違いもありました。

ものすごく厳しいファシリテーター!?

例えば私は3箇所目の実習先としてダーウィンの病院に行きました。通常は同じ南オーストラリア州内・アデレードを中心としたエリアの病院や施設に行きます。ただ希望・選考制で州外の病院へ実習に行ける機会もあります。ダーウィンの病院での実習はそのうちの一つでした。ダーウィンではオンコロジー、つまり癌腫と肉腫のがん全般および、治療や診断などがんに関わる分野を専門とした科で実習することになりました。急性期医療は日本で経験してきた分野でもあること、さらに滞在費用やダーウィンまでの航空券なども大学負担のため若干の旅行気分も重なり、かなり楽しみな実習でした。

予習もかねて、どんな実習先なのか経験者の方に話を聞くことにしました。
すると、返ってきた答えは「ファシリテーターがものすごく厳しいから覚悟しろ」でした。5段階評価のうちどんなに良くても3までしか評価はつかず、4-5の評価をもらえることはない、落とされた人もいる、かなり厳しいので注意したほうがいい、そんな話でした。

実際に実習が始まり担当のファシリテーターの方とお話しすると、先輩の話通りでした。厳しく指導・評価すること、そして4や5の評価をもらえると思うなというのが最初の話でした。最初はかなりビビりました。ただ、自ら望んで参加したこともあり、後には引けません。「高い評価をもらえるように頑張るしかない!」と心に決め、実習開始しました。

すると‥
確かに厳しいのですが、きちんと話をするととても優しく指導も的確です。さらに私がパリアティブケア(緩和ケア)に興味があることを伝えるとホスピスの見学機会を用意してくれるなど、貴重な機会をたくさん与えてくれました。最終的には評価も4-5を中心にいただくことができ、とても勉強になりました。

ダーウィンでの実習は今までの実習とは少し異なる経験もありました。
例えばアボリジナル・オーストラリアンの患者さんとの関わりが増えたことです。

ダーウィンは人口の約4分の1がアボリジナル・オーストラリアンなどの先住民です。アボリジナルが直面する保健医療の問題はさまざまで、アルコール依存症や栄養失調、さらに高い乳幼児死亡率などが挙げられます。オーストラリアという一つの同じ国に住みながらも言葉や文化、価値観や生活様式など大きく異なる彼らに対するケアにはさまざまな課題があると言われています。日本ではもちろん、シドニーやアデレードでも関わる機会は多くなかったため、実際のケアに携わった経験は貴重な体験になったと思います。

↓瑠璃さんの活躍はフリンダース大学のHP上でも紹介されています

画像:Flinders University

4. 辛い経験


私の留学生活の大半は楽しかった、充実していたという形容が当てはまります。ただもちろん辛いこともありました。コロナウィルス感染を検査するためのスワブ検査のスタッフ要員として採用されたクリニックでの出来事でした。

その職場のスタッフは皆さんとても親切で素敵な人ばかりでした。ただ1名、非常に強いあたりをしてくる正看護師の方がいました。その人は全員の前で「この子がトラブルを持ってくる」「鼻が低いからマスクがずれている」など理不尽かつ攻撃的な言葉を使い私を批判します。笑って冗談ぽく聞き流しつつもインターナショナル1人だったこともあり、「自分がいけないのではないか」「自分がもっと頑張らないとと‥」と考えるようになっていました。

すると上長の方が、「彼女の態度・言動はおかしい。Ruriはしっかりしているし問題はない」、他にも辛くないか、大丈夫かと気遣ってくれました。そのとき「あぁ、あれは差別的な意味合いを込めたいじめだったのか」と気づきました。幸いなことにオーストラリアに来てこういった経験をしたのは初めてで、オーストラリアという国が大好きだからこそ、とても悲しくなりました。そしてこんな悲しい思いをしていることを両親が知ったら悲しむだろうと思うと涙が滲んできたことを覚えています。

先にも書いているように他の職員の方はネイティブ・ノンネイティブ関係なくとても素敵な人ばかりで、当の彼女は患者さんへの言動も悪かったこともありすぐに異動となりました。

5. 資格取得、そして就職


辛いこと楽しいこと、嬉しいことを山のように経験し、無事大学卒業までにIELTSも7.0を取得(正看護師資格取得に必要な英語力)。2021年、晴れて念願のオーストラリアのRN(Registered Nurse 正看護師)の資格を取得することができました。

就職は4箇所目の実習先だったアデレードの公立病院です。
実習の際、非常によくしていただいたこともあり履歴書を置き、仕事があればぜひ雇用してほしいとお願いをしていました。卒業と同時にお礼もかね、再度ポジションの空きを確認すると、そこからしばらくして、「短期間のポジションだが、それでもよければオファーしたい」とご連絡をいただきました。
結果、とてもありがたいことに就職活動はほぼせず、今の職場でお仕事をさせていただいています。もちろん、短期間の契約となるため、今後の延長などに向けて引き続き頑張っていく予定です。

6. これから


今は重度認知症患者のケアを中心とした科で働いています。将来的には外科、終末期など日本で働いていた分野を深めることも考えています。国際看護を初め、他にも多彩な国から人々を受け入れる多民族国家オーストラリアが抱える移民政策や難民問題、いわゆる人道支援活動などにも挑戦してみたいという気持ちもあります。

とはいえ、長い留学、大学生活を経てオーストラリアでの正看護師資格取得。まだ実感はありませんが、いったんは大きな目標を達成したところです。就職し新しい挑戦も始めたばかりなので、次なる大きな目標はまだ明確に見えていません。ただ、今までと同じようにやってみたいと思ったらどんどん進んでいってしまう性格なので、新しくやりたいことが見えたときには気がついたらまた走り出しているかもしれません(笑)

人と違う道、初めてのことには不安も伴います。楽しいことばかりではなく辛いことも苦しいこともたくさんあります。しかし、きちんと自分と対話をしながら、心に従いながら前を向いていけば自ずと結果はついてくると思います。まずは就職したばかりの職場で契約を延長できるようがんばりつつ、親孝行もしつつ、日々を楽しみながら、新しい挑戦を見つけていきたいと思います。