海外看護インターンから大学編入!オーストラリアでの学生生活をご紹介

お名前佐藤 茉衣子 さん
留学期間2012年7月 海外看護有給インターンシップにて渡航
2014年2月 Australian Catholic University 2年次編入
2015年2月 Australian Catholic University 3年生
滞在都市シドニー/オーストラリア

オーストラリアで看護師資格取得を目指し大学生をしている、茉衣子です。
ワールドアベニューさんとの出会いに始まり、英語も勉強できてアシスタントナースとして有給のインターンシップも経験できるという素晴らしい留学プログラムがある!ということでオーストラリア シドニーに来て早3年がたちました。2年間の留学経験を経て、現在は、資格取得のためオーストラリアンカソリック大学で勉強中です。

自己紹介
ドイツのフランクフルト生まれ、といってもホントに生まれただけ(笑)で実質は東京育ちです。
丑年におうし座。周りには性格まで牛っぽいと言われています(笑)。好きなことは、英語に看護、音楽にカラオケ。あと食べることも大好きです。
日本では専門学校卒業後、約3年間、手術室で働いてました。
そして、仕事にも慣れてだいぶ、よゆうが出てきたあるとき、ふっと「海外に行きたい」とひらめき、一旦日本での仕事を辞め、海外看護有給インターンシップに参加するためシドニーにきました。(高校生の頃から英語と海外には興味がありました)
昨年、シドニーにあるAustralian Catholic University(オーストラリアンカトリック大学)に編入し、現在は3年生(オーストラリアの学士は3年過程なので最終学年となります。最終学年と言えば、思い浮かぶのは「実習」だと思いますが、今まさにシドニーにある某公立病院のICU (Intensive Care Unit; 集中治療室)で3週間の病院実習、真っただ中です。

1 オーストラリアの現役学生 実習に向かう際の服装とかばんの中身をチェック!

私は、物覚えの悪いので、いつでも即時確認できるようにまとめた薬、検査値、アセスメントに医療用語・略語一覧と(カンニング用ではありません!笑) 手指消毒、ペンライト、ハサミ、電卓にメモの道具などといった学生 必需品です。

↓実習に向かうときの恰好

↓私の実習の必需品

大好きなリンツのチョコレートと、実習用の隠し道具が色々

これで自信を持って実習に望めます!!

2 オーストラリアで病院実習を通じて感じたこと

オーストラリアで学生として病院実習を通して私が感じたオーストラリアでのケアについて、またオーストラリアの公立病院についてご紹介します。

患者さんはもちろん、看護師として、働き手としての権利の尊重

私と同じような境遇、他国で看護師として働いており、オーストラリアで資格取得を目指す人からは、「オーストラリアはとても働きやすい」「恵まれた職場環境」と聞きます。そういった意見は、おそらく、患者さんはもちろん、働き手側の権利を大切にするオーストラリアの考え方が影響しているのだと思います。

実際、真剣ながらもフレンドリーでリラックスしたオーストラリアの職場環境は、魅力的です。
朝のコーヒーとともに始まる申し送りから、ティータイムの休憩、食事休憩、そしてほぼ残業なしの交代時間、さらに、年間の休暇も4週間程度とれるといいます。ケアする側、される側、また共に働くもの同士、権利尊重のため、チームとして互いに尊重して、助け合いながら働いています。

また、働く側への身体的負担への配慮も忘れません。
例えば、オーストラリアでは、リフターと呼ばれる移乗機器を利用することが常識です。

オーストラリアの病院や施設等で広く使われているリフターと呼ばれる機械↓

この移乗機器を利用し、働く側に身体的な負担をさせず患者さんをベッドから車いすなどへ移乗することができます。
オーストラリアではObese(肥満)の患者さんも多いので、「人の力だけでは大変!」というのも一つの理由だとは思いますが……(苦笑)

機器以外にも、患者さんの体位変換や病棟移動を専門で行うスタッフがいたり、Manual Handling(マニュアルハンドリング)といって移動介助など力作業に対する身体的負担軽減への教育や配慮が徹底しています。
介助者の身体も守ってこそ真の安全対策につながるという考えです。

これには私も大いに共感しました。

経験と自主性重視の仕事

オーストラリアの看護師は手順に沿ったケアや、あれをしてはダメ、これをしてはダメといった考えより、各自がそれぞれ考えた中での仕事や責任を果たすといった仕事をしていると感じます。手順書に沿った学びというより、実際にやってみた経験から各自が学んでいくという教育が主なようです。したがって、自主性がとても重要です。
オーストラリアの場合、実習中は学生であってもチームの一員としての関わり、自分たちに許された範囲のなかで主体的に動きます。学生だからといって、人の作業を眺め、メモやノートをとるという光景もあまり見ません。日本のように、毎回患者さんのアセスメントや記録の提出に追われることはないのです。

実際、メモをとるのは記憶力が悪い私くらいかもしれません(笑)。
ただ、そうであっても、これは私なりの効果的な学習法なので、現場のRN(正看護師)たちも、他人と違うから、自分の方法と違うからといって否定することはなく、認めてくれています。私は常に色々なところにノートとペンを持ち歩いているのでInfection control(感染対策)に気を付けてーとよく言われますが……(ごもっとも)
現場において、実践的にどんな経験を得て、何を学べるかは「自分次第」ということですね。

Infection control(感染対策)といえば……
日本ではナース服を着たまま外出や通勤なんてほぼ考えられないのですが、オーストラリアの場合、職場に更衣室がなく、制服を着て通勤、そのまま仕事、そして制服を着たまま帰宅します。もちろん患者さんのケアをするときにはエプロンや手袋を着用しますが、私にはどうにも感染対策の観点からすると、「あまり良くないのでは…」と思っているのですが…… どうなのでしょうか。

ちなみにシドニー(NSW州) 公立病院 ナース服はこんな感じです↓

日本のオペ看みたいな感じですよね。
日本のナース服みたいに可愛さは求められませんが、動きやすそうで機能性重視のようです。

3 視野を広げてみると…

オーストラリアでは患者、看護師や他の職種の人も含め、お互いがお互いを尊重して認め合っています。複雑な上下関係もなく、仕事も効率的に分担されているので、それぞれの本来の業務に集中できます。

そして一人ひとりが主体的に働いています。マニュアルなどはあまり活用されていませんが、看護師の経験による差を最小限にするために統一された記録用紙や、技術や知識の向上のための病棟内や病院内の研修なども充実しています。業務の質の向上への取り組みや、自主的に学ぼうと思えばいくらでも学べる環境も整っています。

↓バイタルサインの看護記録

↓異常値(黄色や赤色ゾーン)への対応方法

こんな感じで学生や新人さんにも、異常値が一目で分かり、その対処法も分かりやすく記録に記載されています。

こんな恵まれた環境で、日々学生として学び、さまざまな経験を得られているのは、とても幸せなことだなと常々思います。残り少ない大学生活(あと8週間の病院実習を残すのみ)を充実したものにできるようにこれからも日々励んでいこうと思います。

今、日本で頑張っている方も、これからオーストラリアに来ようと思っている方も、今まさにオーストラリアにいる方も、日々の仕事に追われて大変だとは思いますが、またちょっと違う環境で、ちょっと違う視点で物事を見てみると面白いと思います。私はオーストラリアでそんな新しい物事の視点や経験をたくさん得られていると思います。
少しでもオーストラリアの看護の魅力も伝えられていたら幸いです。

4 ICU (Intensive Care Unit; 集中治療室)での実習経験

先述したように私の実習先はICU (Intensive Care Unit; 集中治療室)でした。
日本での臨床はオペ室のみのため、ICUの経験はないのですが、日本でのICUのイメージは、重症の患者さんばかりで、たくさんの医療器具や薬品に囲まれていて、非常に忙しい、且つ大変なイメージがあります。

↑まさにこんなイメージです。

日本との明確な比較はできないかもしれませんが、私が感じた、オーストラリアのICUの環境や仕事のやりがい、おもしろさをいくつか紹介したいと思います。

1on1Nursing (1対1看護)

ICUでは重症患者が多いため、1人の患者に対し1人の看護師が受け持ちます。
ちなみに、HDU; High Dependency Unit; 重症ケアユニットでは患者2人に対して看護師1人です。

必要な看護や処置、検査 (毎時間のバイタルサイン、必要に応じた血液検査)など、仕事は多いですが、1対1のため、患者のケアに集中でき、より細やかなケアが実践できているように感じます。
その他、ICU専属の医師や理学療法士など、ICUに精通したスタッフチームで協力し合って患者さん一人ひとりに合ったBest outcome(最良の結果)を目指して日々励んでいます。

看護師の判断による薬の流量調整や人工呼吸器設定

ICUでは多くの患者が輸液ポンプによるSedative drugs (鎮静剤)によって鎮静された状態にあります。この薬剤に関して、オーストラリアのICUでは医師から薬の処方を受けたのち、医師の指示なく看護師の判断で薬剤の流量を調節できます。痛みや不快感を伴う処置や検査、リハビリの前後、また、その時々の患者の状態に応じて鎮静剤の流量を増減し、患者の身体的/精神的負担を少しでも軽減できるよう心がけています。
例えば、「あっ!患者さんの血圧が上がった!」→鎮静剤の流量を増量する といった具合です。
必要に応じて医師とも密にコミュニケーションを取りますが、一人ひとりの患者にあった鎮静状態の判断は私たちに任されているのです。

もちろん、くも膜下出血の患者さんは高すぎる血圧は再出血の危険が高まり、また逆に低いと脳に十分な酸素が行き渡らないため、慎重な血圧管理が求められるなど、病状によって、柔軟かつ慎重に対応しています。

他にも、ICUでは多くの患者さんが人工呼吸器による換気調節下にありますが、この人工呼吸器の呼吸数や酸素量調節も看護師が主に担っています。例えば、患者の血中酸素や二酸化炭素量に応じた換気量や呼吸数の調節を看護師が行っているのです。

こちらの看護師はとても発言力もあり、「患者さんの状態が●●なので■■にしますか?」と言った具合にどんどん医師に提案もします。

オーストラリア ICUの特徴

なんといっても一番の特徴は看護師が判断する場面の多さとその責任です。
より幅広く深い知識も求められますが、何より自分が治療チームの一員として患者の管理に関わっているというやりがいは大きいと思います。患者さんの一番近くににいる存在だからこそ気がつき、提供できるケアがオーストラリアにはあるのかなと感じた実習の日々でした。

5 実習を通じて、印象に残る患者さん

今まで学生の視点から見たオーストラリアの看護について大雑把に紹介してきましたが、今回は特に印象に残っている患者さんを中心に、より実際のケアに焦点を当てて、少し看護観的なことに関する情報も交えて紹介できたらと思います。

Person-centered care(その人らしさを中心としたケア)

「Person-centered care(その人らしさを中心としたケア)」はオーストラリアで看護を勉強していて本当によく聞く言葉です。
特に私の在籍しているAustralian Catholic University(オーストラリアンカトリック大学)はEthical practice (倫理的実践)を大切にしていることもあり、患者さんの権利(rights)や倫理(ethics)がとても大切にされています。
日本でも聞いたことがあるかもしれませんが、illness(疾病)に焦点を置くのではなくて、a person experiencing illness (疾病を患わっている一人の人)という観点で患者を捉えた看護観です。

Therapeutic relationship for Person-centered care and Safety maintenance
(その人らしさを尊重したケアと安全管理のための治療的関係)

そんなPerson-centered careを実践しよとするなか、医療現場においてよく問題になるのがSafety maintenanceとのバランスの問題です。
例えば高齢であったり、認知症であったりで転倒リスクの高い患者さんへの安全対策としての行動制限や身体拘束などを行うことは、多くの患者さんが嫌悪感を示し、拒絶するなど、なかなか難しい問題でもあります。

そこでこちらの医療現場でよく用いられるのがTherapeutic relationship(治療的関係)の構築やActive listening(積極的傾聴)といったスキルです。つまり、患者自身を医療チームの一員ととらえ、目標設定から全ての医療行為に主体的に取り組んでもらえるように治療にとても前向きで有効な患者ー医療者関係性の構築を目指した介入です。

この観点から患者さんの安全管理を考えると、看護師が一方的に介入するのではなく、いかに患者さん自身の安全管理への知識や意識を高め、自ら安全管理に主体的に取り組んでもらえるようにするかがとても大切になります。

例えば転倒リスクの高い患者さんに、看護師の視点から捉えた介入として身体拘束や行動制限を命令のように押し付けるのではなく、実施の必要性、メリットやデメリット、期間の目安などをきちんと説明し、そのうえで患者さんの思いや希望の尊重が大切になります。

その結果、患者さんは治療をより前向きに捉え、また目標達成への意識や希望も主体的に持てるようになります。

私の実習中に実際にあった事例

高齢で軽度の認知症があり、なかなかベッド上安静が守られていなかった患者さんにTherapeutic relationship(治療的関係)的介入を試みて患者さんと話し合ったところ、患者さんの自力歩行への意欲がとても高いことが分かり、彼の行動はその意欲への表れであることが分かりました。しかし、まずはベッド上安静による安全の確保と怪我の回復が必要であったため、その必要性と本人の希望をできるだけ取り入れた自力歩行に向けた目標設定を患者さんと話し合いました。結果、今まで頻繁にベッドから起き上がろうとしていた行為が収まり、理学療法など治療への積極的な取り組みが見られるようになりました。

実際には転倒への危険から自力歩行は難しいとも考えられていましたが、最終的にはほぼ自力の歩行でトイレに行くなどの行為が可能になりました。この患者さんが治療にとても協力的になったのはTherapeutic relationshipの構築とPerson-centered-careにより治療の目的や目標を共に共有することができたからではないかと思っています。もともと、とても自力歩行への意欲が高い患者さんだったのですが、いかに患者さんの主体的な思いを尊重し、サポートできるかが大切であるかを学んだ事例でした。

この患者さんが最後に涙ながらに”Never give up”.と私に言った言葉はきっとずっと忘れないと思います。

Person-centered careと医療・看護の満足度

医療の現場においてありがちなのが、医療者主体の治療で、患者やその家族の思いはしばしば忘れられがちになります。より多くの手間や時間を掛けるのではなく、少し視点を変えて患者さんの視点から接することで、Therapeutic relationshipやPerson-centered careを取り入れることができます。このPerson-centered careやTherapeutic relationshipといった概念は、治療の経過や目標設定に主体的に参加できるといった面から患者さんやその家族の医療に対する満足度を増すだけでなく、看護師にとってもより効率的で効果的な、質の高いケアの実践と満足感の向上にもつながると感じています。

6 まとめ

いかがでしたでしょうか。
オーストラリアでの資格に挑戦してみたいと考えている方にとって、ぜひ参考になれば嬉しいです。